植木の里 安行

“植木の里 安行(あんぎょう)”とは?

 400年以上の歴史を有する安行の植木は、川口市の2大産業として、鋳物産業と共に時代の隆盛を極めていましたが、近年の住宅開発にともなう土地の高騰等で、鋳物と同様、緑化産業従事者も減少しています。しかし交通網の発達で、生産地を茨城県や千葉県などへ移しながらも植木の拠点として安行の役割は大きく、情報の交換や研修の場として利用されています。



なぜ“安行”は植木の里として有名になったのか

地理的条件

 地理的に、大消費地である東京に隣接しているという立地条件は大きく、江戸時代は豊島区巣鴨、駒込、文京区染井、北区田端などが花・植木の生産地であり供給地でありました。安行はその後方の供給基地として栄えてきたのです。
また流通過程を握ると共に、江戸・東京の植木市場あるいは全国の植木市場、更には縁日・お祭り等に参加し積極的な需要開拓を行いました。 戦前から(古くは明治の後期から)カタログ販売、通信・訪問販売(引き売り)なども実施してきました。オランダで開催された国際的花の博覧会「フロリアード」にも、日本を代表して出展し、特に日本庭園は世界の多くの関係者に注目を浴びました。

自然環境

 標高15~20メートルの安行台地は、洪積台地の起伏が多く、台地・傾斜地・低湿地など、日当りを好む木から日陰を好む木まで、いろいろな植木を育てることができました。さらに地下水の流れがよく、土壌の赤土(関東ローム層)は樹木の栽培育成に適していました。
 さらに日本列島のほぼ中央に位置するため、寒い地方の木も温かい地方の木も、場合によっては亜熱帯に属するような木も植えられ、多種類の木、苗木の生産にも適しています。

伝統技術

 長年の歴史で培われた伝統の技術は、全国的にも信用が高く、「安行の植木」というブランドで流通されました。現在も「安行流」という仕立ての技術、「ふかし」という花の開花を早める技術、「根回し・根巻き」という植え替えや運搬の際の技術等は、若い緑化関係者に受け継がれています。

根巻き

 「根巻き」は、樹木を移植する際に堀りとった根に付いている土が落ちないように根鉢の周辺をワラ・ナワで巻きます。鉢の大きさによって縄を鉢の横にかける「樽巻き」と、縦にかける「みかん巻き」などがあります。
安行の根巻きは、縄の造形美が特徴で、仕上がりの美しさは植木職人の誇りです。

赤山の枝物

 枝ものとは花の咲く前に枝を切ったもので、主に「生け花」の材料として使われます。モモ、サクラ、ウメ、ツツジ、ユキヤナギ、ヒバ類などがあります。
枝を折るように束ねることで、輸送中のつぼみの落下を防ぎます。
枝折りされた枝は水あげされた後、養生され開花直前の蕾の状態で出荷されます。

曲げもの

 庭園用の樹木を仕立てる技術の一つに、木の幹を曲げて仕立てる「曲幹づくり」があります。安行の「曲げもの」は、チャボヒバ、クロマツ、キャラなど、樹木によっては30年以上かけて仕立てられています。
 接木、枝払い、芯抜き、ワラ包み、ねじり等の行程を経て完成させるには、長い年月と高度な技術が必要なのです。



安行植木の祖

 安行の地名は、「新編武蔵風土記稿」によると、かつて中田安斎入道安行という人の領地であったことから名づけられた、とされています。この安行の地の植木栽培の起こりは、承応年間の頃、吉田権之丞によって始まったと言われています。
 吉田権之丞の人となりについては、文献等の資料がないので正確にははっきりしていません。権之丞は、若い時から草花や盆栽に興味を持ち、珍しい草木を集めて栽培したところ、安行の土質・風土に適合しその生育が良かったので、これらの苗木の開発にあたったといわれています。
 その頃の江戸は、経済の発展、人口の増加、明暦の大火の復興などの関係から、活動的な消費都市となっていました。加えて、新しい風流を好む元禄時代を迎え、植木の需要は増していました。権之丞は、たまたま苗木や切り花を江戸に運んで販売したところ、大当たりしました。





川口の盆栽

「植木の里・安行」といえば、植木苗木だけの産地と思われがちですが、盆栽の生産も盛んに行われています。安行の盆栽の起源については具体的な年代などは定かではありませんが、一部の書物にはその歴史は安行での植木生産よりも古いと思われる記述もあります。また、関東大震災のあと大正14年ごろに駒込や巣鴨等から植木職人や盆栽屋が、広い土地と火山灰性土壌を求めて、安行周辺(一部は大宮盆栽村)へ移り住み、更に盆栽生産地として安行が発展したといわれています。
初期の安行盆栽は剪定だけの仕立て方でありましたが、やがてシュロの毛を使った「鬼毛曲げ」となり、大正年間になって東京の盆栽家から針金かけの技術を習い、風格のある盆栽を作り出してきました。しかし、高級品だけでなく、多種多様で大衆向きの物も多く、なんでもそろっていることも強みです。
果樹の苗木生産に使われる接ぎ木技術を活かし、年代ものの松類などを創作、また姫リンゴなどの実物の小盆栽も作り出しています。一本の木に紅白を咲き分ける梅の盆栽も接ぎ木技術の成果であります。
また、サツキ盆栽に鹿沼土が最適だということを見出したのもの安行の生産者だったそうです。
盆栽は、国内ではやや伸び悩みですが、近年米国や欧州では逆に愛好家が増加しているので、海外での普及に期待がかけられています。

川口安行 盆栽の魅力